That's 記(雑記)

ネーム ハンドルの自己満足でいろいろなことを書いてます。

勤労手記1~6

「勤労手記1」

眠っているのに、思考が動いている。
起きている……。いつ、起きればいいのだろう。休みたいのに、眠りたいのに。
寝付けない……。

目覚ましが鳴る。救いにさえ思えた。朝早いが、準備をして会社へ向かう。

行くと、数人が居た。挨拶をすると、外へ案内された。そこで少し待って、
全員が揃ってから、自己紹介をした。名前と、これから宜しくお願いします、という
紋切り型の挨拶。
出身、年齢も言った方が良かったかもしれない。

その後、3人の社員に連れられ、現場を引き摺り回された。
会話は思うようにできなかった。言葉の壁があったのだ。
日本国内、日本人同士で何を、という感想を抱くだろうが……方言だ。
己れはここで……。5年間、暮らしており、この地域のそれには自信があった(己れは
標準語以外に、この地域の方言を含め6つの言葉を扱える
マルチリンガルなのだ)のだが、それが打ち砕かれた。
若者の方言とは、濃度が違う。別言語だ。
当然だが、こちらの言葉は問題なく伝わる。そのせいで余計にストレスになる。
それと、「あれ」が多いので、何が何だか解らない。

午前までは、疲労もなく、のんびりとしているな、という印象だったが、
温度が上がると苦しくなってきた。歩き通し。熱中症だ。
こうなるとは、予測できなかった。
自己管理を大切にと言われていたのに……。

その様子を見てか、休憩が取られた。
「しんどかったら言うてな。伝えてくれんと
周りが気付いた時には手遅れじゃけえ。」
喋りも辛いくらい疲労していたが、色々と話を振られた。
そこで、社員達の年齢が判明(名前は不明)。
それと、己れの情報(履歴書に書いた内容)は殆ど知られていた。

長い労働時間が過ぎた。今日はどうだったかと訊ねられる。
まだ若いのだから、続けられる仕事か、
ゆっくり考えてみたらいい、とアドバイスされた。

本社に戻る。社長に挨拶をすると、
慣れていけばいい、と上機嫌に、声を掛けて見送られた。


運転して帰ったが、疲労のおかげで、丁度良く集中できている。
余裕があると、周りを気にしすぎる癖があるのだ。

家に帰ると、夜。明日も早いから、早く眠らなければならない。
今までのように、漫画を読むことも、囲碁を打つこともできない。
体力が尽きている。仕事とは、好きなことを我慢して、
するほどのものなのだろうか。

続けられない、音を上げる、というレベルではないが、
安月給がボディブローのように効いてきそうである。

あとがき

「アッシー君」が日常会話で登場し、携帯電話はフィーチャーフォン、
MT車の坂道発進は呼吸と同じレベルで行える、そんな人達に囲まれた労働環境の物語。





「勤労手記2」

昨日より遅めの出勤。既に社員が揃っている。見知らぬ顔が続々現れる。

親切な人が声を掛けてくれると、余所からも人が集まってきて
社員一人一人、身の上話をしてくれるのだが、一瞬で過ぎ去るせいで
どれがどの人なのか整理できなかった。

その中でも、とある社員の方から、腰を据えて、長く、その話しをされた。
製鉄業で働いていたが、ワンミスの大きさに嫌気が差し、退職。
様々な仕事を転々としたそうだ。

この会社と同業の他社で働いていたが、
仕事は好きなのに人間関係が悪かった――怒号、罵声を飛ばす人、陰口を言う者。
ここではそういう人はいないからいい、と語った。
きっと、その人には、ここは天職なのだろう。

己れにとっては、どうだろうか?

己れは最初にここを見つけて、仕事に就いた。
それで良いのか?

……。

考え込んで、黙ってしまった。
何か気の利いた事が言えればいいのに、形にできない。
わざわざ、声を掛けてくれたのに、申し訳なかった。

今は、入ったばかりで向かうから声を掛けてくれるが、
1月もすれば、それも変わるだろう。今の内に、自分から。
輪に入ろうとしなければ、ならない。

今日は己れの運転で現場回り。MT車の運転だ。
隣に、(歳が倍近く離れている口の悪い男性)社員――「ゲンサン」が座る。
アドバイスを受けつつ、運転。スピードが上手く出せない……。
先程、話せなかった分、その社員と沢山、会話をした。

コンビニエンスストアに立ち寄る。
男性は昼食の弁当を買いに行ったのだ。直ぐに戻ってきた。
「コーヒー飲むじゃろ?」と冷たい缶コーヒーをくれた。
だが、己れはカフェインが苦手なのだ。
しかし、どう返せば角が立たないのかが分からない。
礼を言って受け取る。貰って直ぐ、飲むべきなのだろうが……。

午前の仕事を終え、早めの昼食タイム。己れは外で、一人で食べた。
花粉症が酷く、鼻詰まりのせいで味を感じない。

味が感じられないと辛いという話をよく聞く。
食事なんて栄養摂取のためだ、
味が分からなくても何ともない、と侮っていたのだが、予想以上に辛い。

午後の作業。運転手が別の人に変わる。昨日休んでいた人で、顔合わせは初。
営業職のサラリーマンを35年していて、退職した後にこの仕事に就いたそうだ。
己れの次に新参者らしい。
純粋にこういう場所で働ける事を喜んでいるようだ。
普通ではできないこともできるし、健康的になれた、と話していた。


最後に己れの運転で帰宅。狭い下り坂をクラッチを踏んで走っていると、
行きに同席していた社員に良くないと指摘された。
踏みっぱなしは面倒だからアクセルとブレーキで足りる、というのがその理屈だ。
停車時も然り。……そういうわけで、クラッチを踏まないまま止まってみると、
当然、エンストを起こす。ギアを入れたまま、クラッチを踏まずに停車すると
エンストを起こす、というのは初めて知った。
教習所で、そういうミスをしなかったからだ。

説明不足である。クラッチをずっと踏むのではなく、
止まる少し前に、しっかり踏めばいい。
長々と踏まない、と言いたかったのだ。
或いは、ニュートラルに入れてブレーキ操作だけで止まる、というパターンもあると話していた。
成程、時々、速度がついている時に、ニュートラルに入れている人がいるが、そういう事か……。

そんなMT車での初路上だったが、こちらを見ずに突っ込んでくる車や、
急に道路を横切る自転車が現れる等、イレギュラーが多かった。

慣れてくると、そういう事が無くなる、というのは、そう感じるだけなのだろうか。

因みに、同席していた社員はそれらに激怒していた。
普段からそういうトーンなので、驚かなかった。
同僚に対してもそんな感じなので、裏表のない性格である。
それなのに、険悪な雰囲気はない。不思議な人である。

尚、自動車教習所の教官ではないと言いつつも、
それなりに説明してくれたので、助かった。学校での勉強は
不得意だったのかもしれないが、ポテンシャルを感じる。
実際、その社員の子供は警察官になったそうである。

こんなところでのんびりとせず、懸命に
仕事に打ち込んでいたらどうだったのだろう。
いや、寧ろ、そうだったから、子供がそうなったのかもしれない。

親を越えられない子供は、時代が変わった今現在、少なくない。
親が正社員でも、子供は非正規、という例もある。

のんびりとしていた事が、子供にとっては良かったのかもしれない。

家に帰ってから、働き始めて3日目かと思っていたら、
2日目だった事に気が付いた。

あとがき

「いずれ仕事覚えて、人に指示せんといけん。
まあ、他の仕事もおんなじじゃけど。」と一人の社員が、
己れに言った。一緒に働く人の重要性を常々感じる。




「勤労手記3」

出勤したが何をすればいいのか分からかったので
総務課長を探して、呼び止めて、指示を仰ぐ。

どうやら、いつものメンバーに己れの扱いは一任されているらしい。
己れがその輪から追い出されていると誤解した総務課長は
仲良くしてやってほしい、とそのメンバーに話してしまい、
それに「ゲンサン」は反発していた。


今回は一番年の離れた社員――「ハクサン」と共に現場へ。
色の着いた眼鏡を掛けていて、組長の風情を漂わせている。
目の色が白い事から、白内障なのだろうと思われる。眼鏡を掛けているのもそれで
視力を落としたのだろう。色を着けているのも、紫外線予防に違いない。

親と子以上に歳が離れているので、何を話すべきか分からない。
多少の会話をしつつ、到着。


仕事が遅滞した事から、応援が加わって大所帯となった。

昨日、身の上話をしてくれた社員――「ハリサン」(己れは最初、
「ハンサン」と勘違いしていた)が、今日もしぶとく声を掛けてくれた。
気を遣ってくれているのだ。自分から積極的に
質問していくといいよ、とアドバイスをくれた。

基本的で簡単に見えるが、これが結構、難しい。

時間がやや押したが、何とか終了した。


昨日、初めて顔を合わせた社員――35年間、
ここではない、別の会社に勤めていた「ポブサン」の運転で帰社した。
この人はギリギリを攻めるのが好きで、運転も矢鱈と
左側に寄っている。電柱と紙一重ですれ違う。

車内で話をした。
ここで働き始めて間もない同士なので、話し易い。

「ポブサン」は、高校生の息子がいると話していた。
家のローンも残っていたそうだ。余計に35年も勤めていた会社を
辞めたのが気になる。35年目に、何があったのだろう?

一応、バブル期も散財せずにコツコツ貯めてきたので、
何とかなったそうである。この仕事に就けて、満足そうにしている。

己れは……。

あとがき

社員の名前を覚えるのが大変である。最初は人名を役職名で表そうと考えていたのだが、
そういうものが与えられていない平社員が多いので、こういう表記にした。





「勤労手記4」

自家用車で出勤。4日目にして、出勤時間をかなり短縮できた。
混雑時の半分以下の時間しか掛かっていない。早過ぎるくらいだ。

のんびり歩いていると、すれ違った何人かの社員に挨拶された。
こちらから挨拶する方が望ましいだろう。次からはそうしよう。


タイムカードがないので、出勤票に判子を押すだけ。
総務課長から今日の予定を聞いて、社員達の溜まり場に移動。

知っている人が少なく、馴染めない。どうしたものか、と思っていると、
一人の社員――「キリサン」に呼び止められた。

今日は、その人と一緒に仕事に行くようだ。
さっき聞いた予定と齟齬があるが、気にしないようにしよう。

この社員だけは何故か、渾名で、「キリサン」と呼ばれている。
それなのに、親しげでなく、微妙に他の社員と距離がある……ように感じる。

己れに対して、配慮してくれているようだ。
そのせいか、多くの事を話してくれた。

話してみると直ぐに分かったが、「キリサン」は嫌いなものが多い。

以下、列挙してみると、黒い車(夕方見え難いから)、ファミリーカー(無駄に大きいから)、
前社長(録に働かなかったから)、社長(コンプライアンスをシカトするから)、
働かない社員達(昼飯を何処で食べるかについて何時間も話をしているから)……等々。

他にも、美味しいところを持っていく同業他社や、別の業界の会社、
損害賠償請求してくる弁護士と司法書士、行政書士も「キリサン」の敵である。

それから、今の会社の方針についても苦言を呈していた。しかしそれは、
この業界全体の問題なので、ここだけでは改善は難しいように思われた。
己れのような若い力に期待しているみたいだが……。


「キリサン」の仕事をこなすペースは異常だった。
己れは忽ちに、置いていかれた。

一人で仕事をするから車に戻って待っていてと言われたので、
そこで車内で待機する。

……。遅い。

仕事中なので、望ましくはないだろうが……スマートフォンで時間を潰すか……。

何となく、昔遊んでいたMMORPGを調べると、
昨年、サービスが終了していたと知った。残念である。終わりを見たかった。

そうしていると、「キリサン」は戻ってきた。
「スマホがあると時間潰せてええなあ。」と言った。

「キリサン」はスーパーに立ち寄った後、駐車場を出て、
景色のいい場所までわざわざ移動して、昼食を取る。

寒いのに、外で食べていた。……凍えていた。

そののち、「キリサン」は各所に電話をする。
若い頃は、各地に出向いて、コネクションを作っていたそうだ。
そのせいで、方々から頼まれ事をされると言っていた。でも、そのおかげで
仕事を貰えたり、会社の利益になったりしているそうだ。

渾名で呼ばれている理由がぼんやりと見えてきた。

それと、他の社員と距離があるのは、出戻りしたからだろう。
ある社員と喧嘩して出て行ったそうだが、その社員が辞めたので、
乞われて戻ってきたのだと言う。

仕事そのものは嫌いではないようで、気楽にできる点を気に入っているふうだ。


ここはそうでもないが、この近隣の同業他社は、
儲けを半端なく出していると言っていた。

しかし、過酷な労働をさせた事で一人の社員が脳溢血で倒れ、
重い後遺症が残ったという出来事もあったそうだ。
死にはしなかったが、裁判を起こされれば大事になってしまう。
解雇するわけにもいかないので、一応は給料だけは渡し続けているらしい。

「儲けを出すには、誰かを犠牲にしなければならない。」と
「キリサン」は話していた。


移動して、他の社員とセッションし、仕事を進める。


この会社は地元に根差した仕事をしている。
こうして各地を行き来して思うが、地元と言えど、知らないことだらけだ
中心街で暮らしている人もいれば、街外れで暮らしている人もいる。

「そこの地名の標識間違えてるんだよ。」と「キリサン」が教えてくれた。
誰もそのミスを直そうとしない、と愚痴っていた。

……地元に貢献すると言うのは簡単だが、実行に移すのは大変なことである。


早めに帰社。おかげで、普段会わない事務員と喋れたので良かった。
事務仕事も少し教えてもらい、帰った。

あとがき

今回は定時に上がれたが、これまでそれをオーバーしていたのは
己れが足を引っ張っていたせいなのだろうかと不安になった……。





「勤労手記5」

普段通り、出勤する。行くと、社員は疎ら。
今日は、こちらから挨拶をした。
今日する筈だった仕事の予定が急遽、キャンセルされたようだ。
多くの社員が帰り始めていた。

社内に足を運ぶ。今日は外に出ず、室内で仕事をさせられるようだ。

最初に、総務課長の指示を受け、女性社員の「アコサン(社長と親しいベテラン)」と
「イコサン(入社二ヶ月目)」の共に掃除をした。

そのあと、事務作業に必要な筆記用具、朱肉、カッター、電卓等を渡された。
「電卓は何に使いますか?」
「見積りする時の計算に使うけえ。」
聞き方が悪かった。
「何の見積りですか?」
己れは計算が得意なので、電卓の必要性を感じた経験は少ない。
ただ、0の多い掛け算は苦手だ。
1,000×1,000=1,000,000(100万)というのだけは暗記しているが、
それ以上に0が付くと、何桁になるのか分からない。

己れの机に案内される。仕事を始めて5日目にして、初めて自分の席に座った。
パソコンが置いてあって、引き出しもある、ごく普通のデスクだ。


総務課長から、本を渡される。それに、仕事上で必要となる知識が詰まっているようだ。
「キリサン」からも本を受け取った。そっちは業界紙だった。内容はディープだ。
こんな世界があるとは……。

一瞬で読み終える。眠い。暇である。
総務課長から、分厚い定款規約を渡される。

つまらないと思っていたが、期待を裏切る面白さ。
給与について書かれているからだ。


退職金の計算が解り難い。
「退職時の基本給×働いた年×100分の150」
と記されているのだが、最後の100分の150とは、つまり、1.5ではないか?
何故、こんな表現を……。
100分……小数点の位の話で、0.015ということなのでは……だとしたら安過ぎるか。
1.5という解釈が正しいだろう。

それらの事から、計算してみると、ここを勤め上げた場合、
己れの生涯賃金は1億5,000万円である。安い。
学生時代の同級生達と比べると1億円以上、差が付く計算だ。
下手すれば、ダブルスコアだ。

正社員になれば、生涯賃金は3億円、非正規社員は1億円と
中学校の社会の資料集に書いてあった覚えがある。
しかし、生涯賃金3億円を越えられるのは、一握り。
名の知れた大手企業でも届かないケースもある額だ。
己れの人生の価値は、1億5,000万円。1億5,000円の人間か……。
それを一瞬で得る者も、世の中にいるというのに、生涯をかけても……それだけだ。

ギャンブルや宝くじに夢を託す気持ちも、何となく分かる。
自分の人生の底が見えてしまった。

定款規約も読み終えた。暇になる。
外回りから戻ってきた「キリサン」が、「インターネット見てもいいよ。
18禁のサイトは見たらいけんけど。」と言ってきた。

インターネットエクスプローラーを起動させると、
ニュースが目に入ってきた。こうやって、ニュースを見るのも
久しぶりだ。働くと、ゆっくりと新聞を読んだり、
テレビを見たりする機会も無くなる。

大谷翔平選手の活躍がピックアップされている。
彼は、野球選手だ。日本のプロ野球で打者としても、
投手としても、類稀なる結果を残した。
それを引っ提げて、アメリカ、メジャーリーグに挑戦した。
練習では、期待外れのレベルだったが、本格的なスタートに合わせて、
アジャストしてきたようだ。

1年間、このペースで活躍し続ければ(それが困難なのが
プロアスリートの世界であるが……)、己れの一生分の賃金を、
1ヶ月……いや、1日。それどころか、1試合だけで稼ぐかもしれない(因みに、
日本で既に合計4億円以上を得ている)。

何十億、何百億の世界。彼の生涯賃金を1としたら、
己れの生涯賃金は0.01ぐらいではなかろうか。
「0.01大谷翔平選手」である。

彼は、彼にしかできないことをしている。

己れも、己れにしかできないことをしている。

どんなお金持ちでも、己れの人生は己れにしか得られない。
己れだけしか、己れの人生は体験できない。
それを、皆が、持っている。

唯一無二の活躍を続ける彼と同じように、
己れも、己れにできることをするだけだ。

ニュースも見たかったが、仕事に直結する内容を
見るべきだろう。マップをチェックしてみようか……。


昼になり、机で弁当を食べていると、「イコサン」がお茶を汲んでくれた。

午後になると、「コタサン」(若い社員。声が高く、背も高い)が、
外回りに出ようと声を掛けてくれた。

運転させられた。減速が難しい。「コタサン」は速度を見て
ギアを落とすように勧めてきた。

数日前に乗った時、「ゲンサン」はニュートラルに入れるか、
エンストしそうになったタイミングでクラッチを踏めばいいと話していたが、
どちらがいいのだろう。ギアチェンジは苦手なので、
「ゲンサン」のやり方の方が向いてそうである。

それと、2速発進でいいとも言っていた。試してみると、
ローギアで発進するよりスムーズだった。ローギアで発進する方が、
車にはいいと聞いた事はあるが……。

目的地は市役所。活気がある。ここに来るのは初めてだ。
市役所の採用試験を受けていたが、地元の市役所は受けなかったからだ。
行くと、見知った顔がいくつかあった。

公務員予備校で見た顔もある。ここは観光課だ。
入って直ぐに、観光課という花形部署に回されるなんて運がいい人だ……。
幸せに違いない。が、しかし、その表情は、楽しそうに見えない。
封筒を黙々と集めて、浮かない顔で、彼方此方に駆けずり回っている。
奥の方では、テーブルを囲って何人かの職員が
笑いながら話をしているのに。……。この人は、己れと同じく、
最後の最後まで市役所の採用試験を受けていた。
でも、一次試験以後、姿を見た事がない。それなのに、ここには通ったのか……?
話し掛けようとしたが、こちらに気付くと、その人は、
そっぽを向いた。……解った。臨時職員か。

その人は、市職員を目指し続けるのだろう。己れは、さっと諦めた。
何方が、いい生き方なのだろう。

「ポブサン」の話を思い出した。
仕事が楽しいかどうかは気の持ちようだ、と言っていた事を。

挨拶を済ませて帰った。

車内で、「コタサン」と話をする。
「こういうふうに、付いて行っていいですか、って訊いて、
積極的に行かんとダメよ。」と言われた。

現状、あちらから気を配ってもらって、声を掛けてられているが、
これは、相手方にとって大きな負担を掛けているのかもしれない。

「仕事している時に質問したら、邪魔になって悪いかなって
思ってしまって……。」
「遠慮しちゃいけんよ。癖になるけぇ。最初はもう失敗するの
当たり前だから。俺も前の仕事場ではぶち怒られたけぇ。」

会社に戻る。
総務課長が己れの姿を見て、「タオル首に巻いとるのは可愛いけど、
それで外の人に会うのはダメ。」と苦言を呈してきた。
寒かったのでタオルを巻いていたのである。
道理で、職員が訝しげな目で己れを見るわけだ。

最初に挨拶した職員は、にこやかに名刺を渡してくれて、
自己紹介をしてくれたが、それ以外の職員は皆、
何だこいつ、と言わんばかりの視線を送ってきていた。
己れも、その態度を見て、その職員達を訝し気に
見てしまっていた。

服は既にボロボロ。着ているのは、スーツでも制服でもない。
だから、見掛けは気にした事がなかった。次からは気を付けよう。
タオルを巻いたまま、外の人に挨拶するのは良くない、と……。

他、判子を押したり、名刺作成(「名刺」が最初「飯」に
聞こえて何のことやらさっぱり解らなかった)の話をしたりした。

定時、17時になった。「アコサン」「イコサン」の二人は
ご近所から貰ったという大量の筍を己れに渡して帰って行った。
どうすればいいのだろう?

……。定時だが、「ハクサン」が言っていたように、
直ぐに上がらずここでの仕事を見て覚えるべきだろうか。
しかし、「キリサン」は「もう居らんでええよ。居たいなら居ればいいけど。」と言う。

どちらの意見も正しい。

「ハクサン」は仕事を早く覚えて慣れた方が皆とも馴染み易いと考えている。
一方で「キリサン」はどうせ安月給なので、長々と働く必要はないし、
この時期に少々頑張ったところで変わらないのだから休養した方がいい、と言っているのだ。

どうするべきか?

悩んだが、帰る事にした。


こんな雨の中を……高校生か、中学生か……。合羽を着て自転車で帰っている。
己れがハンドルをそちらに向ければ、大怪我を負わせられるだろう。

世の中には自分の思うがままにしたい、操りたいと考える、支配欲の強い者がいる。
虐めや立場を利用したハラスメントが未だ無くならないのも、そういう心理が働くせいだろう。

足にでも怪我をさせれば、抵抗なんて出来ないだろう。況してや、子供だ。

でも、車で体当たりを仕掛けて弱い者をいたぶる人間は、この車道に一人として居ない。
それはきっと、昨日と同じ今日。今日と同じ明日が来ると、思っているからだろう。
この平凡な日常を誰も壊したくないのだ。……今日も、平和だ。

あとがき

社内の空気というものが、内勤で感じる事ができた。





「勤労手記6」

普段通り、出勤する。
今日も内勤だった。留守番しているように言われたのだ。

退屈である。

パソコンを開いて、ソフトをダウンロードして、と指示された。
ダウンロードか……。……。ログインが必要らしい。IDは教えてもらったが、
パスワードが書いてない。複数の社員に訊いてみるが、誰も知らなかった。
こんな事が有り得るのだろうか?

総務課長が棚から辞書のようなファイルを取り出して、それを探そうとする。
有るわけがない。……。己れもファイルを見てみる。沢山の領収書が入っている。
無駄に高価な物を買わされていそうである。

パラパラも見ていると、メールアドレスが載っている書類を発見。
これを使えば、パスワードを再設定できるのでは?試してみよう。

「秘密の質問」とやらが立ちはだかってきたが、回答できなくても
問題なかった。何のための質問なのやら。

無事、パスワードを再設定できた。
だが、ダウンロードの期限を過ぎてしまっていた。残念。

……。

……ここに至る過程で気になったことがある。
メールだ。古いものから新しいものまで、全て未読。
取引先や、商工会議所、市役所などから送られてきている。
それが、約200件も着ているのに。

1月31日以前のものが無い点も引っ掛かる。意図的だ。
……前任の者の仕業か……?こういうものなのだろうか?
これでは相手方と連絡が不十分なのでは……。

……。己れの仕事ではないから放っておくか……。

……と、その時の己れはそういう結論に至ったが、
平常に考えれば、伝えるべきだ。疲労していて、
思考がおかしくなっていた……。睡眠不足では、まともに考えられない。

昼になり、弁当を食べ、定時を待つ。
他の社員は、掛かってきた電話を取るなどしているが、
己れは、特にする事がない。

定時になったので上がる。……今日、己れが出勤した意味はあったのか?
メールも……伝えた方がいいだろう。来週には……。

あとがき

パスワードは、と訊ねるとパソコン起動時の
ログインパスワードを示された。リアクションに困った。


18/4/10 ベテラン社員と同じ仕事ができるようになれる気がしない。('A`)
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ネーム ハンドル

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ネーム ハンドルと申します。
Name Handle。略してNH。
一人称は「己れ(おれ)」。

主な内容は日記(空想。不定期更新)です。
イタめな日記ですが暖かい目で
見守ってやって下さい。

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